症状母指の第1関節が伸びない
乳児の頃から母指の第1関節(以下、IP関節)が曲がったままで伸びない状態を強剛母指(小児母指ばね指)と呼んでいます。
母指の付け根の部分にしこりが触れることがありますが、あまり痛がりません。母指IP関節が曲がったままで他動的にも伸びない状態であることに、母親などが気付きます。母指の付け根のシコリを押しても痛みはありません。
原因と病態屈筋腱が膨らみ腱鞘に通らない
はっきりとした原因はわかっていませんが、母指をおしゃぶりしながら噛んだり、母指を握り込む癖がある子が多く見受けられます。出生時ではなく、その後に発生すると考えられ、3歳未満の間に約8割が発症すると言われています。
母指を曲げる腱(長母指屈筋腱)は、硬い靱帯性腱鞘というトンネルを通ります。腱がこのトンネルの出口で膨らんで太くなり、このトンネルの中に入らなくなります。この腱がトンネル内に入り込まないため、母指IP関節が曲がったままとなってしまいます。
大人の場合のばね指は、靭帯性腱鞘の炎症が起こり屈筋腱の滑走が悪くなり、ばね現象が起こります。小児の場合は靭帯性腱鞘の炎症ではなく、屈筋腱が膨らんで靭帯性腱鞘を通らなくなるという違いがあります。
強剛母指の重症度分類は杉本らの分類が用いられます。
杉本らの分類
Ⅰ型(腫瘤型):MP関節掌側の腫瘤を触れるが、運動制限のないもの。
Ⅱ型(自動弾発型):IP関節の自動伸展で弾発を伴うもの。
Ⅲ型(他動弾発型):IP関節の自動伸展不可能であるが、他動的には弾発を伴って伸展可能なもの。
Ⅳ型(強剛型):IP関節は屈曲位をとり、他動的にも伸展が不能なもの。
治療と予防親指を固定で装具して経過観察
強剛母指の症状の推移については、おおむね徐々に改善する傾向にあり自然治癒することがあるので、母指IP関節を伸展させるように当院では着脱可能なオルフィット装具を作成し、夜間や昼寝の間に装着を指示しますが、装着初期は終日の装着を指示することもあります。この状態で数ヶ月様子をみます。
ある報告では、MP関節伸展0°の肢位でIP関節が0°まで自動伸展できる状態を寛解と定義した場合、6〜7歳までに66%の症例にこれが認められたとの報告があります。
Ⅰ型(腫瘤型):経過観察のみ
Ⅱ型(自動弾発型):経過観察を基本にして装具を使用する
Ⅲ型(他動弾発型):他動運動を指導して装具を使用する
Ⅳ型(強剛母指):経過観察によりⅡ型・Ⅲ型に移行した後にそれぞれの方針で対応
他動弾発型は自動弾発型になり、次第に治癒に向かいます。シコリもだんだんと小さくなったり、柔らかくなったりします。
しかしながら、初診時に屈曲角度の強い強剛母指では、経過観察の後も改善が乏しく手術が必要なる場合があります。また、小学校入学前までに改善しない例や、弾発時の疼痛を訴えてあまり改善のみられない例に対しては全身麻酔で手術を行う場合もあります。
他動伸展についてはMP関節を屈曲するとIP関節は伸展しやすくなります。ここからMP関節を伸展していくと屈筋腱と腱鞘のストレッチが可能となります。痛がらない程度のストレッチで良いので行ってみて下さい。
小さなお子さんの親指が曲がったまま伸びない場合は、大東市住道にある当院へ一度ご来院ください。