症状膝が痛くて曲げ伸ばしができない
・急性期(受傷後3週間程度)
受傷時にボキッという音(ポップ音)がしたと患者が訴えることも多く、スポーツでの受傷の際には競技の継続が不可能となることがほとんどです。関節血症はほぼ必発で、関節の腫脹や熱感を認めます。外力による軟部組織損傷の直接的な症状である膝関節を動かす事によって痛みが出現します。そのため可動域制限、さらには破行(びっこを引く)、歩行が困難となる。機能障害症状である関節不安定性は、疼痛のためにはっきりと把握できないことも多いです。
・慢性期
痛みや腫れが軽減あるいは消失し、それとともに膝くずれ (giving way)に代表される不安定性の愁訴が患者の症状となってきます。不安定感があるまま放置しておくと、新たに半月板損傷や側副靱帯損傷などを生じ、慢性的な痛みや腫れ(水腫)が出現します。前十字靭帯が損傷をすると「内側半月板損傷」と「内側側副靭帯損傷」を合併することもあります。このことを「不幸の3徴候」と言います。
原因と病態スポーツなどによって膝が捻れてACLが断裂する
膝関節の前十字靭帯(anterior cruciate ligament:ACL)損傷は、損傷頻度が高いばかりでなくスポーツ選手にとっては致命的な損傷です。ACL損傷はスポーツ活動中に受傷することが多く、スポーツ年齢層が拡大しつつあるわが国でも、その発生頻度は近年増加傾向にあります。併せてMRlなどの診断技術の発達に伴い、診断の確実性が飛躍的に向上した結果、日常でも頻繁に遭遇する疾患の1つとなりました。靭帯損傷は外傷であり、交通事故、労働災害、スポーツなどがその原因となりますが、スポーツによる受傷が最も多いとされています。ACL損傷の受傷機転は非接触型損傷やスキーなどによる介達型損傷(膝関節の捻りなど)が多く、急な方向転換、急停止、ジャンプからの着地など減速動作での受傷がほとんどです。サッカーなどのスポーツで膝外反+外旋位(いわゆるknee-in、toe-out肢位)になる事によりACL断裂が起こり得ます。
また性別でみると、女性が男性より2〜8倍高率に発生するという特徴があり、これには男女間の身体的特徴やホルモンとの関連が提唱されています。
一般に外反強制により「内側側副靭帯」が、内反強制により「外側側副靭帯」が損傷し、また脛骨上端の前内方に向かう外力で「前十字靭帯」が、後方への外力で「後十字靭帯」が損傷します。最も頻度が高いのは内側側副靭帯損傷です。外側側副靭帯を単独で損傷することは非常に稀です。非常に強大な外力を受けると複数の靭帯に損傷が及ぶこともあります。
b)膝に外反力が加わると、それによって内側側副靱帯(MCL)が緊張し、外側コンパートメントに圧迫力が生じる。
c)この圧迫力により、脛骨の骨形態(脛骨外側高原の後傾)によって大腿骨外顆が後方に偏位することにより脛骨前方移動および内旋が生じ、ACLが断裂する。
d)ACL断裂により脛骨前方引出し力に対するprimary restraintが消失し、また足部が地面に固定されていることも相まって大腿骨内顆も後方に編位することにより、ACLの断裂後に骨外旋が生じる。
治療と予防保存療法よりも手術療法が推奨され、スポーツ復帰まで半年以上要する
保存療法:膝動揺性抑制装具(サポーター)を装着して早期から痛みの無い範囲で可動域訓練を行い、筋力低下を最小限にとどめるようにします。
受傷初期は疼痛緩和と安静を兼ねてギプス固定を行うこともあります。
「内側側副靭帯損傷」では多くの場合は保存的に治癒しますが、「前十字靭帯損傷」ではその可能性はかなり低くなり手術を選択することが多くなります。「後十字靭帯単独損傷」の場合には、多少の緩みが残ってもスポーツ活動に支障をきたさないことが多いことから、先ずは保存療法を試みるようにします。
上記の理由から手術適応は前十字靭帯損傷が最も多いのですが、十字靭帯の治療(手術)は自家組織(ハムストリング腱や膝蓋腱など)を用いて再建術が一般的です。手術は関節鏡を用いてできる限り低侵襲で行われています。術後は3~6ヵ月程度のリハビリを行い、徐々にスポーツ復帰となります。
手術療法:手術療法には靭帯修復術と再建術の2通りがあります。
・受傷時期による治療法の違い
1)新鮮損傷例
靭帯付着部の剥離骨折で、骨片転位のあるものでは原則的に観血的治療(骨接合術)が選択される(上の図) 一方、実質部での断裂の場合は、mop-end tealとも表現されるような形態の断裂様式をとり、手術で強固な縫合修復は困難であることが多いとされています。しかし、ACLに自然治癒力がまったくないわけではなく、関節鏡視を併用し手術方法を改善することで、一次修復により治癒が期待できる症例も存在し、活動性が低い症例に限り、修復術を考慮します。
1週間前後は外固定を施し、安静にした後は膝関節の機能回復を図ります。その後、スポーツ活動の高い例には受傷後の膝関節拘縮が消失し、可動域が改善する3〜4週間以降に再建手術を行うという方針が一般的です。
2)陳旧性損傷例
陳旧性損傷では、不安定性の程度をより正確に評価します。治療方針は他覚的な不安定性の程度と自覚症状に基づいて決定します。 通常の日常生活動作には支障はありませんが、急なストップやターン、コンタクトを伴うスポーツ活動で膝くずれ(giving way)をきたし、この再受傷の繰り返しで関節内の半月板、軟骨などに二次的損傷が進む症例に対しては再建手術が適応となります。
術後は簡単な膝装具で伸展位または軽度屈曲位とします。痛みに応じて、可能であれば早期から荷量歩行を許可します。自家骨付き膝蓋腱では術後早期から膝関節完全伸展位訓練を行いますが、ハムストリング腱での再建では2ヶ月間は伸展強制を行ってはいけません。また正座は術後4ヶ月以降で許可していきます。ジョギングは術後3ヶ月以降、ダッシュは5〜6ヶ月、完全な競技復帰は9ヶ月以降というような治療計画(プロトコル)を個々に立てていきます。
スポーツをしていて膝を捻ってしまって激痛があり、膝崩れをするような場合は前十字靭帯損傷(ACL損傷)が疑われますので、大東市住道にある当院へ一度ご来院ください。